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訓練受けても職なし 

クローズアップ2009:失業率、最悪5.7%
訓練受けても職なし


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◇「野宿生活もういや」
 28日に公表された7月の完全失業率(季節調整値)は5・7%、有効求人倍率(同)も0・42倍と、いずれも過去最悪となった。ハローワークには、派遣切りなどで失業し新たな職を探す人の姿が絶えない。雇用問題は、30日投票の衆院選でも大きな争点となる。しかし、企業の生産に回復の兆しが見え「景気底打ち」との声が高まる中でも、企業は本格的な雇用再開に慎重で、求人は増えず、失業者の不安といらだちは募るばかりだ。【東海林智、日野行介、宮島寛】

 「野宿生活をしていた時はコンビニなどの廃棄食品を食べて命をつないでいた。二度とそうならないためには、安定した仕事が必要だが……」。東京・多摩地区に住む男性(31)は7月中旬から、事務機器関連の職業訓練を受けている。

 政府が09年度補正予算で始めた緊急人材育成・就職支援制度で、月10万円(単身者)の生活費をもらいながら訓練を受けられる。今の雇用情勢で、雇用保険も使えなくなった失業者には頼みの綱だ。

 制度は7月29日にスタートし、約1万人の訓練受け入れ態勢が整いつつある。1カ月足らずで既に約2000人が応募。だがスキルアップしても、肝心の新規求人が少なく、現状は就労にはなかなかつながっていない。

 この男性はIT(情報技術)関連の派遣労働者として働いてきたが、4年前に雇い止めで失職、住居を失い野宿生活を続けてきた。4カ月間の訓練を受けて情報処理の国家試験を受験するつもりだ。「派遣で働くのは二度とゴメンだ。何とか正社員の仕事に就きたい」。だが先に職業訓練を受けた先輩は、就職が決まらず苦しんでいる。求人が少なく、応募者が殺到して不採用が続く。一緒に学ぶ訓練生約30人も不安でしようがない。地域によっては事務系正社員の仕事は求人倍率が0・1倍を切っている。

 男性は衆院選で少数野党のビラまきを手伝う。「僕らのことをまじめに考えてくれた党だから、少しでも良くなればと手伝った。放置されたとの思いがあるから2大政党は信用できない」と話す。

 大阪市のハローワーク梅田は、お盆の時期も1日1000人以上の利用があった。職業相談部長は「新規求人が出てこないので、雇用にまだ明るい兆しはない。失業期間が長引いている」と話す。

 「正社員の仕事に就きたいと40社に応募したが採用されなかった。1人の募集に100人が来た会社もあった」。ここで職を探す大阪府豊中市の元派遣社員の男性(32)は嘆く。既に衆院選の期日前投票をした。「選挙に行ったことなどなかったが、今回は特別な思いで行った。もちろん雇用問題が最優先」

 自動車部品会社が一部で期間従業員の採用を再開するなど、雇用復調の兆しを指摘される愛知県。それでもまだハローワークには毎朝、長い行列ができる。7年間働いた自動車部品会社を昨秋リストラされた名古屋市の男性(38)は、今春で雇用保険の給付も途絶えた。「景気は底を打った? 何言ってるの。僕はどん底」と吐き捨てた。

◇生産持ち直しても景気不透明 企業、雇用再開に慎重
 世界的な経済危機が深刻化した昨秋以降、非正規雇用の社員を中心に4万人近い人員を削減した自動車業界。徹底した在庫調整を進めたことで今春以降は生産は持ち直し傾向にあり、現場では人手不足感すら出始めている。しかし、各社は雇用の再開には慎重だ。

 三菱自動車は24日、1250人の工場従業員の増員を決めたものの、600人は部品メーカーからの応援。残る650人も短期の期間工が中心だ。トヨタ自動車も販売が好調なハイブリッド車「プリウス」の増産を急ぐが、愛知県内の工場の人員は他の工場からの配置転換などで賄う。トヨタの幹部は「正社員に余剰感がある中、本格的な雇用再開は考えられない」という。

 デジタル家電や半導体などの生産が回復し始めた電機業界も「現在の正社員を守るのが精いっぱい」(半導体メーカー)の状況だ。東芝は10月に携帯電話機の工場を中国に移転するほか、ソニーは国内4カ所の電機事業の工場の09年中の閉鎖を計画するなど、生産拠点の整理・縮小が進む。

 企業が慎重姿勢を崩さないのは、回復傾向とはいえ生産が低い水準にとどまり、景気の先行きに不透明感があるためだ。自動車や家電の販売は「エコポイント制度やエコカー減税など政府の景気対策に下支えされた一時的な需要」(自動車メーカー)との見方が強い。欧米などの経済情勢も不安定で「下期の業績が読み切れない」(大手電機)との声もある。

 衆院選では、自民党が「日雇い派遣の原則禁止」や「職業訓練期間中の生活支援」、民主党は「製造現場への派遣禁止」や「最低賃金を1000円へ引き上げ」など、各党がマニフェスト(政権公約)の柱に雇用対策を掲げる。

 また、ほとんどの党が派遣労働者受け入れの規制強化を掲げ、非正規社員の正社員化を促すとしている。企業側には「派遣労働者を増やせば、正社員化を求められる恐れがある」(メーカー幹部)との警戒感も生じている。

 7月の完全失業率は、内閣府の外郭団体がまとめた民間エコノミスト36人による予測の平均(5・5%)を0・2ポイントも上回る大幅な悪化だった。しかも企業が解雇や雇い止めをしないよう政府が補助する雇用調整助成金などが、失業者の増加を食い止めている側面がある。「企業内失業」と呼ばれる余剰人員は600万人に上るともいわれ、完全失業率は年内に6%を超えるとの懸念も高まっている。【平地修、坂井隆之、高橋昌紀】

毎日新聞 2009年8月29日 東京朝刊