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貧困化と労働者の非正規化は歩調を一にする悪しき政治の産物、それを解消すべき政治手法は予算配分と景気対策だが誤った手法では頓挫するのみ、生活保護費削減と派遣緩和で日本が危うい 

財務省に異議あり! 生活保護削減案に反論する 大西連 自立生活サポートセンター・もやい
社説 派遣法改正案 不況招く「経済政策」だ
社説 [派遣法改正案] 均等待遇の実現が先だ
現場はひどいありさま 派遣法改悪で加速する労働者イジメ
景気悪循環 鮮明 雇用悪化 しぼむ家計
もたつく増税後景気 消費前年割れ 求人倍率も低下
過労死防止 国の矛盾 長時間労働抑制へ法施行 労働時間規制撤廃の動き 道内の遺族批判

SYNODOS

2014年10月31日 07:00

財務省に異議あり! 生活保護削減案に反論する - 大西連 / 自立生活サポートセンター・もやい

10月27日、財政制度等審議会財政制度分科会の資料が公開された。財政制度等審議会は、国の各施策の削減等の論点や案が提示される財務大臣の諮問機関である。この財政制度等審議会での案は、財務省からの提案ということもあり、今後の国の施策の方針に与える影響も決して小さくない。

今日は、ここで提示された資料の中から、生活保護についていくつか論点を取り上げ、財務省の削減案に関して反論をおこないたい。

生活保護における論点

生活保護にかかわる論点については、以下のような資料が提示された。

社会保障②(年金、生活保護、障害福祉)

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia261027/01.pdf

すでに、生活保護等の生活困窮者支援としては、

・生活保護基準の削減

・生活保護法の改正

・生活困窮者自立支援法

などの取り組みがおこなわれている。その問題点については、以下のリンクを参照いただきたい。

【SYNODOS】生活保護の「引き下げ」は何をもたらすのか/大西連

http://synodos.jp/welfare/743

【SYNODOS】生活保護法改正法案、その問題点/大西連

http://synodos.jp/welfare/3984

【SYNODOS】新たな支援制度の実態とは――生活困窮者自立支援法の問題点/大西連

http://synodos.jp/welfare/5308

詳細は下記に述べるが、今回提示された財務省の案は、「最後のセーフティネット」と呼ばれる生活保護や、生活困窮者支援施策への提案としては、あまりにも雑な提案が並んでいる。

具体的には、

・住宅扶助基準(生活保護の住宅費の基準)の引き下げ

・冬季加算の適正化

・「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

・医療扶助の適正化(後発医薬品ベースへの見直し)

・生活困窮者自立支援法の財源のありかたと体制の規模について

の各論点があげられた。以下、一つ一つ解説と反論をおこなう。

住宅扶助基準の引き下げ

住宅扶助基準の引き下げに関しては、

「住宅扶助の特別基準は、低所得世帯の家賃実態よりも高い水準に設定されているため、均衡が図られる水準までの引き下げが必要ではないか」

と提案されている。

まず、住宅扶助基準とは何かというと、生活保護で支援する住居に関する費用、具体的には生活保護利用者が居住するアパート等の家賃などの基準額(上限額)を示す。

この住宅扶助基準に関しては、現在、社会保障審議会「生活保護基準部会」にて、議論がおこなわれている[*1]。

[*1] 第19回社会保障審議会生活保護基準部会資料
10月21日に公表された「生活保護基準部会検討作業班における作業について[*2]」という資料を参照すると、住宅扶助に関しては、住宅扶助基準と「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」とを比較している。

[*2] 生活保護基準部会検討作業班における作業について
ここでは、現行の住宅扶助特別基準(単身・上限額)では、「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」をカバーできる住宅は13.1%に過ぎないという調査結果が明らかになった[*2]。

この「最低居住面積水準」とは、2011年3月に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」において定められたものであり、「健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積」と定義されている水準である。

現行の住宅扶助基準は、国が定めた「最低居住面積水準」を満たしている額とはいえない状態であるのは明らかになっている。

それにもかかわらず、基準を引き下げるというのはナンセンスであり、閣議決定された「最低居住面積水準」を反故にする矛盾した案である。

冬季加算の適正化

次に冬季加算の適正化について説明する。冬季加算とは、寒冷地等での冬季(11月~3月)の暖房代等の出費を考慮して通常の生活保護費に上乗せされて支給される金額のことである。

ここでは財務省は、

「冬季に需要が増加する家計支出品目の冬季増加額の全国的な地域偏差を超過して設定されている冬季加算額分について、骨太の方針を踏まえ来年度から引き下げるべき」

と提案している。

実際に、総務省家計調査(平成25年度)によれば、全国平均の冬季の需要増加傾向と冬季加算の地域別分布をみると、冬季加算額が過剰に支給されているようにみることもできる。

しかし、この「家計調査」に基づいたデータは、光熱費等の「11月~3月分」と「4月~10分」とを比べ、その増加分を見たものである。そもそもが、夏季には冷房等を利用することは一般的であり、冬季に急に光熱費等が増加するとは考えづらく、ミスリードなデータの出し方である。

また、低所得者や生活保護利用者のなかには、燃費の悪い暖房器具を利用していたり、今後の電気代の値上げ、灯油代の値上げ等を考えると、単純に下げればいいというものでもない。

冬季加算に関しては、先述した生活保護基準部会にて今後、実態調査等も検討されているようなので、引き下げありきの前提でなく、実態に合ったデータに基づいて議論するべきである[*3]。

[*3] 冬季加算の検証について
「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

生活保護利用者は大きく分けて、「高齢世帯」「傷病障害世帯」「母子世帯」「その他の世帯」にわけられ、高齢世帯が45%、傷病障害世帯は30%、母子世帯は7%、その他の世帯は18%となっている(2013年10月速報値)。

この「その他の世帯」は、稼働年齢層ともいわれ、ここでは、

「経済雇用環境はリーマンショック以降改善しているにもかかわらず、「その他の世帯」をみると保護廃止割合がむしろ低下している」

「就労を通じた保護脱却のため・・・(中略)・・・一層の取り組みが必要なのではないか」

と書かれている。

もちろん、「その他の世帯」への就労支援をおこなっていくことは必要なことだ。しかし、これは2009年のデータになるが、「その他世帯」の年齢階級別分布を見てみると、世帯主の平均年齢は55.8歳で、20代は2%、30代は7%、40代は16%、50代は34%、60代は30%となっている。「その他の世帯」の半数以上が50代~60代であり、必ずしも「働き盛りの世帯主」とは言い難い[*4]。

[*4] 2011年4月19日生活保護基準部会資料「生活保護制度の概要について」9ページ
また、2013年5月16日、社会・援護局長通達「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」により、新規で生活保護を利用する稼働年齢層は、3~6か月以内に「低額でも必ずいったん就労」ということが求められることになっており、全国の自治体では実際に集中的な就労指導がおこなわれている[*5]。

[*5] 2013年生活保護関係全国係長会議資料38ページ
このような非常に就労バイアスが強い生活保護行政であるにもかかわらず、「その他の世帯」の生活保護利用者が減少しないのは、就労支援の不足というよりは、受け入れ先、雇用先がないという問題のほうが大きいのではないだろうか。

平均年齢が55.8歳で、場合によっては病気等をもっていたり家族の介護等に追われている生活保護利用者が再就職をはたし、就労自立をむかえるのは、なかなか困難であろう。

実際に知り合いの生活保護利用者から話を聞くと、100件以上の面接を受けても落ち続けたり、生活保護利用者であることにより履歴書の空白ができて就職の不利になったりと、就労自立への道のりが厳しいことを日々痛感している。

にもかかわらず、財務省によれば、

「生活保護受給の更新期を設定し、毎更新期に就労自立に向けた受給者の努力も勘案しつつ、保護の継続が真に必要か否かの判定を行うような仕組みも検討すべき」

「就労支援を正当な理由なく拒否した場合には、保護の廃止に至る前の段階的な措置として保護費の削減を行えるような仕組みも検討すべき」

と提起している。

「生活保護受給の更新期を設定し……」に関しては、いわゆる生活保護の「有期化」の議論であるが、ここで言う「受給者の努力も勘案じつつ」とは、あまりにも暴論である。

そもそも、努力をどう判断するのか。結果が出なければ努力していないのか、毎日ハローワークに通えば努力しているのか、2日に1日なら努力しているのか、3日に1日ならどうなのか。または、毎日通っていても真面目に就活していないかもしれないし、その「努力」を一体どのように判断するのだろうか。

もし、このような視点で困った時に最後に使える社会保障制度である生活保護制度が、努力しているかどうかで廃止される、しかも、努力しているかどうかを窓口の職員がみて判断するという非常に精神論的な、そして、制度の運用が各自治体や担当者によって解釈の幅がでてしまうような制度に変わってしまう。

それは明らかに、必要な人を保護し、自立の助長をうながすという本来の趣旨から変容してしまうものであり、実態を顧みない提案である。


医療扶助の適正化(後発医薬品ベースへの見直し)

医療扶助の適正化の論点では、後発医薬品ベースへの見直しを考えたい。財務省の「機械的な試算」によれば、生活保護利用者の医薬品をすべて後発医薬品にすると、約490億円の削減が可能とされている。

そして、

「効能は同じ後発医薬品が存在する場合には、先発医薬品ではなく後発医薬品にかかる費用をベースにして医療扶助の基準を設定すべき」

と提案している。

しかし、すでに改正生活保護法34条3項によって、生活保護利用者は原則として後発医薬品の使用が求められている。そして、実際に後発医薬品の使用割合(数量ベース)では、使用率が48%となっており、徐々に後発医薬品の使用が促進されていることがわかる。

しかし、一方で、後発医薬品の金額シェアでの使用割合をみると、2013年で生活保護が10.4%であり、医療保険では10.9%と、生活保護のほうが使用割合が低くなっている[*6]。

[*6] 同財政制度等審議会参考資料社会保障② 25ページ目
しかし、では、実際に生活保護利用者には後発医薬品の使用を義務付けるべきなのだろうか。医学的には影響が全くないという前提の下で仮に義務付けたとして、しかし、それは、金額ベースでは医療保険の10.9%しか普及していないものを強制することでもあり、スティグマ性(恥の意識)を増長させてしまうことにはならないだろうか。

また、生活保護利用者は、先述したように7~8割を高齢世帯や傷病障害世帯が占めることもあり、慢性疾患等で日常的に服薬治療を受けている人も多い。そういった人たちが薬が変わることにより不安や、また、決まった薬しか使用できなくなる(強制的に)スティグマ性を背負わされる可能性がある。

すでに、後発医薬品の使用の促進に関しては施策としても進められており、このような「機械的な試算」によって削減目標とされてしまうことは、そういった現場での取り組みや、利用者の日常を軽視するものである。

もし仮に後発医薬品の義務化を提起するのであれば、当事者や医療機関等へのアンケート等による実態調査をおこなったうえで俎上にあげるべき論点で、このような形で雑に、そして軽率に「○○億削減」と掲げるものではないだろう。
生活困窮者自立支援法の財源のありかたと体制の規模について

生活困窮者自立支援制度は2015年4月より全国で一斉にスタートする新制度である。僕は、生活困窮者支援を国の責任で制度化したことは評価しつつも、その内容や実施体制については批判的な立場をとっている。

しかし、それを前提としたうえでも、財務省からの提案にはこれまでの議論を無視したような視点から論点が出されている。

特に財源のあり方に関しては、

「まずは、制度改正を含めた生活保護の見直しにより財源を捻出すべき」

制度開始時の体制規模にかんしては、

「自治体の準備状況や地域のニーズに応じた相談員等の配置をおこなうべきではないか。全国一律の予算措置では、実態にそぐわない非効率な体制となるおそれ」

と提起している。

前者の財源に関してだが、かねてより「生活保護を削って生活困窮者自立支援法に予算をまわす」ことに対して批判的(そうなることを予期していた)であった。それがまさに現実的な懸念となった。

生活保護基準の段階的な引き下げにより最終的には約600億円が削減されるとの予定だが、2015年4月よりスタートする生活困窮者自立支援制度はまだ予算規模が未確定とはいえ、500億~600億円程度の規模になると考えられている。

しかし、そもそもが、生活保護制度から削って、その費用を就労支援中心の生活困窮者自立支援制度に充てるというのは非常に問題のあることだ。生活保護制度はナショナルミニマムであり、当たり前だが必要な人が申請すれば支給しなければならず、予算の枠組みがあっても実際には経済雇用状況等の影響をうけて、費用負担額は増減する。

それを、あたかも定められた予算の枠組みの中で、生活保護と生活困窮者自立支援制度で分配するような視点は、生活保護の趣旨や制度の性質を鑑みたときに、まったくもって言語道断のことだ。

また、生活困窮者自立支援制度の政策効果を生活保護利用者の減少としている点も非常に問題がある。そもそもが、生活保護利用にいたらない(いたりそうな)状態の人、具体的には生活保護基準以上の生活困窮者を支える制度として生活困窮者自立支援法は誕生しており、生活保護が対象とする稼働が困難な状態にある・稼働する場がない生活保護基準以下の生活困窮者とは、対象とする層が異なる。

であるので、当たり前だが、生活困窮者自立支援制度が機能したところで、生活保護利用者が減るとはかぎらない(先述のように生活保護利用者は高齢世帯、傷病障害世帯が7~8割を占め、近年は高齢世帯の増加が著しい)。

なので、生活困窮者自立支援制度の政策効果を生活保護利用者の減少とすることは、ミスリードであり、法の実態にそぐわない考え方である。

また、制度開始時の体制規模に関しては、確かに僕も、全国一律でスタートすることは現段階では実態にそぐわないことだと考えている。

実際に、2014年9月26日におこなわれた生活困窮者自立支援制度全国担当者会議の資料をみても全国で一斉にスタートするには準備不足な感は否めない[*7]。

[*7] 生活困窮者自立支援制度全国担当者会議について
特に、「モデル事業実施自治体における支援実績について」を見ると、相談実績が96自治体で2013年8月~2014年6月で、新規相談が9428ケース、うち支援決定が1479ケースとなっている。

これは、単純計算して平均すると、1つの自治体で1か月に新規相談が8.9ケース、うち支援決定が1.4ケースだったことになり、閑古鳥が鳴いている状態であると言える[*8]。

[*8] 生活困窮者自立支援制度全国担当者会議「モデル事業実施自治体における支援実績について」
これらの実績を見ると、正直言って、時期尚早に思える。しかし、この制度の目的は全国一律に新しい支援制度を張り巡らせることであり、政策効果を考え、一部の自治体のみでおこなうことを目的としているものではない。

もちろん、現状の実績等が明らかに不足していることは明らかなので、制度としての信頼性や透明性を高めていくためにも第三者委員会的な検証や改善は必要だが、まだ始まったばかりの制度でもあるので、そこは今後に注視する必要があるだろう。

給付より投資が重視される傾向

ここまで、財政制度等審議会財政制度分科会で公表された資料をもとに、生活保護にかかわる論点について、いくつか解説と、財務省の削減案に対する反論をおこなった。

とはいえ、ここで提起された削減案は、あくまで財務省の案であり、これがそのまま施策に反映されるかというと、そうではない。しかし、注意しなければならないのは、財務省は「政策効果」や「適正化(削減)」を念頭にいれて書く事業について見直しを提起しているということだ。

もちろん、不要不急の施策(予算)は見直しや適正化(削減)が必要だろう。だが、社会保障分野は、特に生活保護に関しては、一人一人の生活を支える最後の制度である性質上、単純な(機械的な)見直しや適正化(削減)は、そのまま一人一人の生活を直撃する。

であるが故に、施策の変更や改正等にも慎重を期すべきであり、このような形で一方的に見直しや適正化(削減)が提示されることは、多くの生活保護利用者を不安にさせることであろう。

また、先日、閣議決定された「子どもの貧困対策に関する大綱[*9]」のなかで、「給付型の支援」ではなく、子どもへの学習支援と親への就労支援などの「投資型の支援」が重視されているように、近年、制度において「政策効果」が求められる傾向がみてとれる。

[*9] 子どもの貧困対策に関する大綱
もちろん、学習支援や就労支援など就労自立等につながり貧困層を減らしていくような効果を持つ「投資型の支援」も必要なことは言うまでもない。ただ、当たり前だが、最低限度の生活を保障するための「給付型の支援」が整っていなければ、極端な話、貧困家庭で子どもが無料で塾にいくための支援は利用できるようになったが家に帰っても生活困窮から夕食をたべられない、などのことがおこりかねない。

まず、1階建てとしての「給付型の支援」があって、そのうえで2階建て部分としての「投資型の支援」によって自立に向けて進んでいく、という前提が軽視されている。

2012年に成立した社会保障制度改革推進法の2条に記載された「基本的な考え方」の2項に「給付の重点化及び制度の運営の効率化」と書かれているが、社会保障分野では、政策効果(費用対効果)が必ずしも測れない場合も多く、また、そもそもが、高齢世帯や傷病障害世帯など、「投資型の支援」が不向きな層が多く、こういった財政上の削減を行うことがなじまない。

もちろん、今回の財政制度等審議会で提起された案は、あくまで案に過ぎないが、社会保障制度、特に生活保護にかかわる部分の今後の在り方にかんする議論は、その実態に即した慎重な議論がおこなわれるべきであり、単純に(機械的に)算出したものであるとしても、あまりにも配慮に欠け、制度の背景や歴史性、制度利用者の生活を無視したものである。

正しい知識や生活困窮者の実態にあったデータ分析、専門家や支援団体の知見等を踏まえたうえで、議論がおこなわれることを切に願っている。

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大西連(おおにし・れん)
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
1987年東京生まれ。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わる。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にもに参加。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言している。



<社説>派遣法改正案 不況招く「経済政策」だ

2014年10月31日 琉球新報

 政府が労働者派遣法改正案を国会に提出した。今国会最大の対決法案だが、それだけではない。この国の在り方をも占う法案だ。

 政府は今国会での成立を目指すが、国の在り方を左右する以上、慎重審議に徹すべきだ。

 現行法は通訳などの専門業務を除き、派遣労働者の受け入れ期間に3年の上限を設ける。改正案はこの制限を撤廃し、全ての業務で、3年ごとに働く人を交代させれば、半永久的に派遣労働者を使い続けられるようになる。賃金を安く抑えたい産業界の求めに応えた形だ。

 疑問を禁じ得ない。現行法が期間を制限してきたのは、恒常的に発生する仕事には恒常的な正社員を充てるべきだとの原則があったからだ。制限がなくなれば正社員を派遣労働者に置き換える動きが一気に進みかねない。社会全体に不安定雇用を広げることになる。

 安倍晋三首相らは「生涯派遣の労働者を増やすとの批判は当たらない」と釈明に躍起だ。だが、なぜ派遣の増加にならないのか、納得のいく説明は見当たらない。

 バブル崩壊後の日本経済は失われた20年と称される。経済成長率のマイナスも経験し、右肩上がりの神話は失われたが、もう一つ失われたものがある。雇用の安定だ。

 経済成長の喪失と安定雇用の喪失。二つの喪失は一見別物に見えるが、実は深い関連が疑われる。

 総務省の昨年の発表によると、非正規社員は労働者の38・2%と過去最大を更新した。20年前に比べ非正規の割合は16ポイントも上昇している。1990年代後半以降の労働法制改定で企業が非正規雇用をしやすくなったことが大きい。

 低所得者の増加はすなわち、消費に慎重な層が増えるということだ。消費の意欲と実需が高いのは若年層・子育て層であり、その層に不安定雇用が広がると当然、消費は収縮する。人件費抑制で短期的には企業は利益を上げるが、国全体の消費が収縮すれば回り回って業績悪化につながりかねない。

 この派遣法改正は一見、企業を利するように見えて、大局的には経済政策としても消費拡大に逆行するのだ。

 労働法制改定は小泉構造改革で進み、その結果が不安定雇用の拡大、格差拡大だった。安倍政権は派遣法改正から「残業代ゼロ法案」、「解雇特区」など、労働法制を一層改悪しようとしている。構造改革の失策を繰り返してはならない。



社説 [派遣法改正案] 均等待遇の実現が先だ

2014年10月31日 05:30 沖縄タイムス

 労働者派遣法改正案の国会審議が始まった。政府は来年4月施行を目標に、今国会での成立を目指す。

 だが、改正案は企業の論理を優先した内容で、派遣労働者の待遇改善や身分保障への対策は脆弱(ぜいじゃく)だ。このままでは、雇用の質の低下を招くばかりである。結論を急がず徹底した議論を求めたい。

 改正案の柱は、派遣労働者を受け入れる期間の上限撤廃だ。現行では、通訳など専門26業務以外は、同じ職場で最長3年まで、と上限が決まっている。正社員から派遣労働者への置き換えを防ぐためである。

 しかし、改正案では、期間の上限や専門業務の区分が廃止される。労働組合から意見を聞くことなどを条件に、3年ごとに働く人を入れ替えれば、同じ職場で派遣をずっと使い続けられるようになる。

 つまり「『派遣』は臨時的・一時的な対応で、恒常的な業務には正社員を充てる」という原則からの転換である。

 企業が派遣を活用するのは、一時的に働き手が必要になったという理由からだけではない。低コストで労働力が調達でき、好不況に応じて人員調整がしやすいためだ。企業は派遣労働者を「雇用の調整弁」としてきた。

 今回の改正案は、企業の使い勝手をより高める形の内容だ。成立すれば、正社員から派遣労働者への置き換えが進むことは容易に想像できる。派遣を含む非正規労働者の比率は約38%にまで高まっているが、さらに上昇する恐れが強い。

    ■    ■

 政府、与党は、改正案に雇用継続や正社員化につながる措置を盛り込んだとアピールする。

 内容はこうだ。派遣会社は、同じ職場で3年働いた派遣労働者を正社員とするよう派遣先に依頼したり、次の職場を紹介する。派遣労働者に計画的な教育訓練を実施する。また、悪質業者の排除を目的に、すべての派遣会社を許可制とする。

 だが、その効果には疑問符が付く。というのも、派遣先の正社員への登用は「依頼」にすぎず、雇用される保証はない。教育訓練の中身もはっきりせず、キャリアアップへの道筋は見通せないからだ。

 正社員と同等に働きながらも、低賃金を強いられ、家計を支える収入が得られない。雇い止めなどの懸念が常につきまとい、将来に希望が持てない-。派遣労働者のこうした不安を払拭(ふっしょく)するには、ほど遠い。

    ■    ■

 安倍晋三首相は、国会答弁で「子育てを担う世代が生きがいを持ち、安心して働ける環境整備を図る」と法改正の狙いを説明した。

 であれば、まずは派遣労働者が、同じ仕事をする正社員と同水準の賃金を受け取れる「均等待遇」を実現すべきだ。派遣期間の上限撤廃など規制緩和はそれからである。

 安倍政権は「女性が活躍する社会」を推進するが、非正規雇用者の過半数は女性が占める。正社員との賃金格差が是正されず、派遣のまま固定されるようでは、政権の看板が色あせる。



現場はひどいありさま 派遣法改悪で加速する労働者イジメ

2014年10月31日 10時26分 livedoorNEWS

日刊ゲンダイ

「派遣労働者の能力向上を図り、正社員への転換を目指す」という掛け声のもと、安倍首相が今国会での成立を急ぐ労働者派遣法改正案。現行最長3年となっている企業の派遣労働者受け入れ期間を事実上撤廃し、人を代えれば派遣を雇い続けられる内容だ。経団連の榊原会長が「使い勝手がよくなっている」と評価するように“企業寄り”の法改正で、労働者イジメが加速するのは必至。来年4月施行をもくろむ安倍政権は31日に与野党の質疑を行い、首相がAPEC首脳会議に立つ前の11月上旬に衆院通過を狙っている。

 廃案を目指す民主党が29日、派遣労働者のヒアリングを行ったが、「法改正は制度改悪。ますます雇用環境が悪化する」と次々に反対の声が上がった。そもそも、現場は現状でもひどいありさまなのだ。ヒアリングに応じたのは30~50代の外国籍を含む男女5人。現行法では「専門26業務」に限り無期限の派遣が可能だが、これが拡大解釈され、企業の都合で労働者をこき使う実態が浮かび上がってきた。

 後述の3つのケースは、いずれも派遣元は実態を把握しておらず、相談しても「派遣先のことは何もできない」と取り合わなかったという。

「業種の垣根を取り払ったら、雇用環境がますますうやむやになり、使い捨てが増える」「派遣は臨時的、一時的、と言いながら、仕事の内容は正社員と変わらない。だったら待遇も同等にしてほしい」という意見が上がるのはもっともだ。

 民主と維新の党は、維新がまとめた「同一労働・同一賃金推進法案」を共同提出する方針だが、野党が踏ん張らなければ労働環境はますますムチャクチャになる。

■公益法人に3年超勤務…30代女性
 一般事務で応募したにもかかわらず、「26業務」の事務用機器操作で契約書を作成されてサイン。門外漢である医療行為も強要され、派遣先に改善を求めると、「あなたに人格はない。うちにとってただのスキル」と一蹴された。

■通信大手に3年超勤務…40代女性
 一般事務で採用されたが、「26業務」のOAインストラクター業務を任せられ、時給が上がらないまま働き続けた。揚げ句、派遣先の上司からセクハラ被害にまで遭い、心療内科に通い退職に追い込まれた。

■大手自動車メーカーに約6年勤務…30代女性
「26業務」の事務用機器操作業務だったが、実際は製品デザインに携わり、リーマン・ショックのあおりで突然雇い止めにあった。



景気悪循環 鮮明 雇用悪化 しぼむ家計

2014年10月31日 13時56分

 景気回復の遅れが鮮明になってきた。政府が三十一日、発表した有効求人倍率(季節調整値)が三年四カ月ぶりに悪化したほか、完全失業率も上昇。物価上昇も続き、一世帯当たりの消費支出も大きく減っている。安倍政権は十二月に消費税再増税するかどうか決定するが、厳しい判断を迫られそうだ。

 厚生労働省が三十一日発表した九月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比〇・〇一ポイント低下の一・〇九倍で、三年四カ月ぶりに悪化した。

 総務省が三十一日発表した九月の完全失業率(季節調整値)も二カ月ぶりに悪化し、前月比0・1ポイント上昇の3・6%だった。

 これまで景気回復を背景に求人倍率は改善を続けてきたが、消費の落ち込みで採用意欲に陰りが出てきた可能性がある。

 厚労省によると、九月の新規求人状況を産業別にみると、労働者派遣業が前年同月比で約五千八百人減少した。製造や小売り、サービスなど幅広い産業に労働者を送り出している派遣業は、雇用情勢のバロメーターの一つ。

 総務省によると、失業率が悪化したのは、新たに職探しを始めたものの仕事が見つからない人が増えたためという。

 ◇ 

 総務省が三十一日発表した九月の二人以上世帯の家計調査によると、一世帯当たりの消費支出は二十七万五千二百二十六円で、物価変動を除いた実質で前年同月比5・6%減。消費税率が8%に引き上げられた四月以降、六カ月連続のマイナス。減少幅は八月(4・7%減)から拡大した。

 外食を含む「食料」や、電気代や上下水道料の「光熱・水道」など、幅広い分野で減少した。一方、自動車購入や自動車整備費の「交通・通信」は増加した。

 自営業などを除いたサラリーマン世帯の消費支出は7・3%減の三十万三千六百十四円で、六カ月連続で減少。実収入も6・0%減の四十二万一千八百九円と、十二カ月連続でマイナスになった。

(東京新聞)



もたつく増税後景気 消費前年割れ、求人倍率も低下

2014/10/31 10:50 日本経済新聞

 景気のもたつきが続いている。9月の消費支出は夏場の天候不順も響き、物価の動きを除いた実質で6カ月続けて前年を下回った。有効求人倍率は3年4カ月ぶりに前月を下回り、人手不足などを背景に底堅い雇用環境の改善も一服している。9月の景気は生産や小売業販売が上向いたものの、全体では一進一退の動きにある。

増税後の景気はもたつきが続いている

 総務省が31日発表した9月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は27万5226円と、物価の動きを除いた実質で前年同月に比べて5.6%減った。内訳では食料が前年比実質で2.9%減。今年の9月は昨年より日曜日が1日少なく、外食などへの支出が減っている。光熱・水道費も8.5%減。9月の調査には8月の支払いが反映される。夏場の天候が悪かったため、電気代の支出が減った。

 被服・履物は前年比2.7%減、教養娯楽費は2.8%減と他の品目よりは落ち込みが小さい。駆け込み消費の反動で落ち込んだ支出は回復してきた。季節要因をならした9月の実質消費支出は前月に比べて1.5%上がり、3カ月ぶりに上昇に転じた。

 勤労者世帯の実収入は実質で前年比6.0%減。消費増税と物価の上昇で収入が目減りし、消費の向かい風になっている。

 雇用統計では厚生労働省が同日発表した有効求人倍率が1.09倍と前月より0.01ポイント下がった。9月は有効求人数が前年比5.1%増と4年5カ月ぶりの低い伸び率にとどまった。9月の新規求人数は前年同月より6.3%増えた。

 総務省が公表した9月の完全失業率は3.6%と、前月より0.1ポイント上がった。完全失業者数が2カ月ぶりに増えた。一方で就業者数は6402万人と前年同月から43万人増え、このうち女性は2757万人と過去最高だ。総務省は職探しをする人が就業できていると見て、雇用情勢は「引き続き持ち直しの動きが続いている」との判断を維持した。



過労死防止、国の矛盾 長時間労働抑制へ法施行/労働時間規制撤廃の動き 道内の遺族批判

(11/01 07:31、11/01 12:58 更新) 北海道新聞

 労働時間の規制を外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」の議論が進む中、道内の過労死遺族が懸念を強めている。導入を求める経済界は「効率的に働ける」と主張するが、長時間労働の過酷な実態を知る遺族は「ただ働きを助長し、過労死を増やすだけ」と批判。遺族らの要望を受けて成立した過労死等防止対策推進法が1日に施行されたが、「対策が後退しかねない」との不安も広がる。

 ずいぶん疲れた表情で、庭の芝生は伸び放題だった。「あのとき気づいていれば」。千歳市の荻野京子さん(72)は弟の沢田實さんと最後に会った日のことを思い出すたびに、悔しさがこみ上げる。沢田さんはその1カ月半後の2011年7月に、脳出血などで亡くなった。62歳だった。

 沢田さんは、08年から同市内の飲食店で調理員として勤務。自宅で見つかったメモによると、同年11月の勤務時間は308・5時間。時間外労働は92時間にのぼり、過労死認定の目安となる月80時間を上回る。残業代は払われていなかった。

 だが、店側によると出勤簿やタイムカードはなく、労働基準監督署に労災認定を申請したが、死亡との因果関係は認められなかった。認定を求めて現在、裁判で争っている。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは財界の要望を受ける形で、6月に閣議決定した政府の成長戦略に盛り込まれた。厚生労働省の審議会で具体的な内容を検討中で、来年の通常国会に法案が提出される見通し。

 1日施行された過労死等防止対策推進法は、遺族らが署名活動などに取り組み、超党派の議員立法として今年6月に成立。過労死の防止策を国の責任と明記している。

 同法の施行を控えた31日、連合北海道は長時間労働などについて考えるシンポジウムを札幌で開催。北海道過労死問題研究会は1日、電話で相談に応じる「過労死・過労自殺110番」を実施する。

     ◇

 「過労死・過労自殺110番」は、1日午前10時~午後3時で、弁護士や医師が(電)011・261・7738で相談を受ける。<どうしん電子版に全文掲載>


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